臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

靴音響かせ、軌跡を辿る

忘れちゃいけない、日々の記憶。今の君を守ってくれるもの。

うちの軍人たちのSSです。過去メインだったり。


≫きらきらとひかるもの(円城寺雷兎&円城寺風兎)

明るい日差しが柔らかく降り注ぐ中、公園では多くの子供が自由に駆け回っていた。甲高い声がそこかしこで自分の感情を周りに発信するように響いている。楽しい、嬉しい___憤り。歓声に混じり言い争うような声も上がっている。一つの遊具を囲んで、同じ容姿の二人の子供が互への怒りに顔を赤くして言い争う。
「僕が遊ぶんだから、待っててよ!」
「なんでにいさんばっかりいつも先なの、僕も遊びたい!」
「だから、僕が終わったらふうとが遊ぶんだって」
「僕だって先に遊びたいもん」
どうして自分がこんなに言ってるのに相手は一歩も譲らないのかと二人の声にだんだん苛立ちが見え隠れする。風兎と呼ばれた少年がついに涙目になったときに穏やかな声がかかった。
「雷兎、お兄ちゃんがあまり弟をいじめちゃいけないよ。たまには譲ってあげよう。風兎も、あまりお兄ちゃんを困らせてはいけない。」
優しいひだまりのようなこの人が二人は大好きだった。この人が声をかけただけでピタリと口論をやめて一言も聞き漏らすまいとこの人を一心に見上げるのだ。彼の優しい声に風兎は泣き止んで遊具に向かう。逆に雷兎と呼ばれた少年は不貞腐れたような表情で離れた広場へと向かっていった。二人の様子にくすくすと笑うと彼はまた問題が起こらない程度に見守るのであった。

「いっつもいつも、おにいちゃんはってそればっかり。ふうとはなんにも知らないんだ」
優しいあの人に窘められてはもう食い下がる気はないが、それでも弟の態度に不満は降り積もっていく。たまたま見かけた猫に雷兎はしゃがんで目線を合わせて語りかける。
「泣いたら誰かが助けるから、ふうとはすぐ泣く。やってらんないよ」
いつもそうなのだ。彼が泣いて我慢を強いられるのは雷兎である。まったくこの世は平等ではないのだ。不貞腐れた雷兎は饒舌に猫に語りかける。猫は興味なさげにあくびを一つこぼした。
「…おまえまで僕のことなんて気にしないんだろ」
当然、猫にとって雷兎は寛いでいたところに勝手に愚痴を零しているだけの存在であり興味など欠片もないのだが、愚痴を零している当の雷兎にとっては猫でさえ敵に回った気分である。実に、実に気に入らない!
そんなことを考えてると、小さく呼ばれた。にいさん、と。
「なに」
実を言うと風兎が近付いていることに雷兎はとうに気付いていた。雷兎が気配に鋭いというわけではなく、なんとなく風兎の気配だけは分かり易いのである。逆も然り、双子ならではなのだろうか。風兎だって気付かれていることは分かっていたんだろう。
「あの、僕もう遊んだからね、交代しよう?」
「…ほんとにいいの?」
「え……いいの!」
本当にもういいのか、と目で訴えれば風兎の目は微かに泳いだが、しっかりと頷く。それに眉を顰めるが雷兎は一つ頷いて遊具に向かった。

雷兎が遊具で遊んで少し経った頃に優しい声がかかる。もう帰ろうか。雷兎と風兎は笑って頷いて公園の出口に向かう。
帰りの道中、二人は一言も話さなかった。一切互いを見ずに帰路に着く。
少し歩いたところで優しい彼は少し寄るところがあるから、と雷兎と風兎に自販機の隣に設置されたベンチで待っているように言って去って行った。いつものことなので二人ともおとなしくベンチに座る。いつもならば二人仲良く隣に腰掛けるのだが、今日は別だ。ベンチの端と端に座って、やはり無言を貫く。
ふと、犬の鳴き声が聞こえた。雷兎と風兎は顔を見合わせ、次いで声の方を向いて絶句した。無意識にベンチから降りて数歩下がる。飛びかかられたらあっさりと負けてしまうのは目に見えているとわかる、大型犬である。
咄嗟に雷兎は風兎を後ろに庇った。恐怖に震えながら犬の挙動に注目する。どうしてこの大型犬はリードをつけていないんだ。飼い主はどこにいるんだ、と泣きそうになりながら思う。風兎が出来るだけ犬の目に入らないように庇いながら、雷兎はこんなときにどうすればいいのかわからずに冷や汗をかく。あの優しい彼ならばどうするのだろう。
彼らにとって不幸だったのは散歩に行こうとした犬がリードをつける前に脱走をし、外へ出て興奮していること、あるいは犬が大変人懐っこく二人を自分と遊んでくれる人だと認識していることなのだが、彼らがそれを知るわけもない。
「にいさん…」
「大丈夫だよ…僕がどうにかするから…」
二人の目は不安に揺れている。どうすれば、と考えたその瞬間わん、と一声鳴いて犬は二人に向かって駆け出した。犬にとっては遊んで遊んで、と無邪気なものであるが二人にとっては死刑宣告に等しい。飛びかかる影にぎゅっと雷兎は風兎を守るように抱きしめ、風兎も同じように守る意思を持って雷兎を抱きしめた。
「こら!」
いつまでも来ない衝撃に目を開けば、優しいあの人が犬の首輪を掴んで行動を制限している。雷兎と風兎がこわごわ目を開けたことに気が付くと優しく微笑んでくれる。
「驚いたよ…二人共、大丈夫だった?さっき犬を探してるって御家族とすれ違ったから、多分そこの子だろうね。返してこようか。…二人に怪我がなくて良かった」
犬に近付くのが怖いらしい二人に少し待っててね、と再び言いおいて彼は早足で犬を連れていく。
二人きりになった雷兎と風兎は互いの顔をじっと見る。全く同じ顔、鏡写しの顔だ。
「ふうと、怪我はない?」
「にいさん、怪我はない?」
同時に発した言葉に、全く同じ顔できょとんとした後に苦笑を零す。おかしくてたまらない、と言わんばかりに笑い声がどちらともなく漏れる。
「ごめんね、にいさん」
「別に、もう怒ってないよ。僕もごめん」
既に、風兎からの謝罪は受け取っている。遊具の交代のときに雷兎は本当に代わっていいのかとしつこく尋ねた。風兎がもっと遊具で遊びたいと心では思っていることに雷兎は気づいている。それでも、雷兎に少しでも早く譲ったそれを雷兎は風兎からの謝罪だと思っている。
戻ってきた彼が二人を見てくすくす笑う。二人は不思議そうに首を傾げて彼を見上げる。
「ふふ、仲直り出来たみたいだね」
あまりに微笑ましそうに言われるものだから、二人は困ってしまう。
「別に、喧嘩なんてしていないもん」
「そうだよ、してないよ」
それにこらえきれないと言うように彼は吹き出した。
「そう、そうだね。雷兎と風兎はいつでも仲良しだもんね。さあ、そろそろ本当に帰らなきゃ。君たちのお母さんに怒られてしまうね」
その言葉がたまらなく悲しくて、二人は左右から彼に抱きつく。こらこら、歩きにくいよと窘めるが彼はたまらなく幸せそうに笑っていた。
「ねぇ、また遊ぼうね」
「またお出かけしようね」
「うん、うん。約束しようね、雷兎、風兎」
夕暮れのせいで見上げた視界の全てが赤い。このまま赤く眩んで、眩さの中に彼が消えてしまいそうと二人は馬鹿げたことを思う。赤い約束を二人は彼と重ね続ける。いつかは溶けて消えてしまう淡い約束を。
3人の影が長く、帰り道に伸びていた。





≫さよなら、正義(守谷真咲&愛野有紗)

それは、守谷真咲にとって世界に等しかった。

守谷真咲の世界はとても、とても狭かった。自分の部屋のベッドから見る天井、そこから聞こえる喧騒。そして、寝込む彼を訪ねるたった一人の客人である愛野有紗から耳にする言葉。
たったそれだけが、真咲の世界を構成するものだったのだ。
学校に通うものの、真咲は度々泣きだすことがあった。その時は必ず発熱しており、保健室で養護教諭に診てもらった後に、養護教諭に見送られて帰ることとなった。ろくに通えぬうちに学校に行っても弱虫だと、揶揄されるようになった。自分が何故からかわれねばならぬかもわからぬままに揶揄される日々のうちに真咲は怯えるようになっていった。そんな彼を助けたのが有紗であった。
自分を庇うあの背中を真咲は忘れたことがない。うずくまり泣く自分の前に立った、凛とした背中は自信のない自分よりよっぽど頼れるものだった。からかっていたクラスメイトを一喝した後にくるりと真咲の方を向いて、真咲のことも叱責して、体調を気遣う言葉を添えた彼女を、きっと真咲は忘れない。
それから有紗は真咲を庇い、励ました。真咲の体調にいちはやく気付き、真咲が早退したり休んだ日には必ずお見舞いに来て一日にあったことを丁寧に話すのだ。有紗が見たものがそのまま真咲の経験になる、この日々。真咲にとっての、かけがいのない世界。

小学校も上級生のお兄ちゃんお姉ちゃん、と呼ばれる頃になれば真咲の体は幼い頃と比較して随分強くなった。周りの子供と比べても遜色ない、立派な子供になっていた。クラスメイトとの関係も概ね良好である。とはいえ一番近しい存在というものは有紗であり、優先順位も有紗が一番高かったといえる。当然と言えば当然なのかもしれない。真咲の幼い頃の経験の半分は、彼女が作ってくれたのだから。
付き合ってるのか、とはやしたてられることも少なくはない。少しずつませてきた少年少女らは、大人の世界に興味津々なのである。子供の知りえない大人の秘密の大きなものとして男と女の関係というものが挙げられる。当然、その根底に至るまでを理解しているのではなく、自分たちに見える範囲の表面をなぞっているにすぎないものであるのだが。ある意味においてこれはごっこ遊びの延長、とも言えるのかもしれない。そんな危うい年頃だからか、秘め事のように彼らは笑い合う。いつか、結婚しようね、と。

ある日の帰り道である。塀の上を器用にバランスを取りながらひょいひょいと歩く有紗に落ちるぞ、と軽く注意をしながら彼女の一歩後ろをついて行く。彼女が落ちても対応出来るような位置である。突然、彼女が塀の上でくるりと振り替える。夕日を背にした彼女の表情はわかりにくかったが、真咲には笑っているのだろうとわかる。
「ねぇ、真咲。私は軍人になるの」
この言葉を真咲は知ってる。彼女はよくこの話をするから。
でも何故だろうか、この日はいつもと何かが違った。夕日で彼女の表情が見えないからか、いや、違うのは真咲の方かもしれなかった。形を掴めない不安が真咲の胸に入り込み、すっと体温が下がるような感覚。何か、大きな間違いを犯す前に気付いて、その分岐点に立っているような。
「私、皆のことを守るのよ。勿論、真咲のこともね」
ああ、とふと真咲は自分が冷めていくのがわかった。いつもは彼女の志しを笑顔で聞いているのに、この時、この瞬間、思ってしまったのだ。

では、有紗はどうなる?
世界の全てを守るという彼女は、いったい誰が守ってくれるというのだ。皆のことを守る有紗を、いったい、誰が、守るのだ。
なんてことだ!有紗は皆を守ると言うのに、この世界は、皆は有紗を守ってくれないという。なんという理不尽、傲慢。そんなことが、許されると思うのか。
世界を守る人をどうして誰も守らないのか。

それに気付いてしまった瞬間に、真咲は全てを悟ったような気分になった。実際には真咲が思うほどの残酷さも、理不尽も、世界は持っていなかったのだろう。しかし、真咲の目には確かに、有紗を守ってくれない世界は敵に見えたのだ。
真咲はこの瞬間に、自分の世界たる彼女を守るために軍人になろう、と決意したのである。
極論として、世界が滅ぼうとも、有紗を守ろうと信じて。

真新しい軍人を着込んだ守谷真咲は新しい日々を送る場所にある種の希望を胸に訪れた。数年前に一足先に軍人になった大切な彼女に、やっと追いついたと笑いかけたかったのだ。
淡い期待を持った真咲は、慌ててその足で空軍へ駆け込むことになった。
自分へと届いた報せに目眩がしそうだ。震える体を叱咤して、ただただ否定と、彼女の笑顔、あるいは叱責が欲しかった。
空軍で最初にすれ違った人の肩に掴みかかるような勢いで話しかけた。とても整った容姿の、落ち着いているときならば話しかけるのに尻込みしそうな、美しいという表現の合う女性だった。必死な様子の真咲に目を丸くして、それでも力になろうとしてくれるのか話を丁寧に聞いてくれる姿勢の端々にこの人の性格がきっとよく出ているのであろうと真咲は思った。
「あの、愛野有紗…のことなんですが」
震えた声で紡いだ名前に目の前の人は少し驚いた顔をした。
「あの、貴方は新しく軍に配属された方とお見受けしますが、何故愛野少将のことをお聞きになるのでしょうか?」
「俺は、有紗の婚約者です」
婚約者、と告げた瞬間に目の前の人の顔色が悪くなった。そんな表情をされたら、真咲の顔も強ばる。こんなことがあっていいのか。
「俺のとこに報せがきて、あの、嘘だって、……嘘、ですよね」
呟くように言った真咲の言葉に、顔を青ざめさせた彼女は頭を下げた。
「すいません、本日はもうお帰りくださいませ、えっと…」
「…守谷真咲です」
「はい、真咲さん。…貴方が声をかけたのが私で、幸いだったと思います。こちら、私の連絡先となります。また、後日にお話させてくださいませ」
彼女は素早く手帳に連絡先を書くとページをちぎり真咲に渡した。帰れ、と言われても納得もいかないのであるが。だが彼女も一歩も譲らないと言わんばかりである。ふと他軍であり新兵の自分が騒ぐべきではないと、冷静な思考が邪魔をする。真咲は泣きそうになった。いっそ理性をかなぐり捨てて泣きわめいてしまいたい。首を緩慢に振ると、彼女に一つ尋ねた。
「一つだけ、教えてください。…有紗が亡くなったって本当ですか。」
随分と嘘をつけない人である。真咲は思わず小さく笑った。
彼女は、唇を噛み締めて、一つ、深く礼をしただけだった。

彼女、もとい彼、花柳撫子に真咲が声をかけたのは幸いであった。
撫子は真咲と別れた後真っ先に向かった部屋を控えめにノックする。
「誰だ」
「撫子でございます。少しお話したいことが」
「撫子か。入れ」
名乗った途端に声が少し柔らかくなった気がする。
撫子は一つ呼吸をおいて部屋に入った。
「兄上、お聞きしたいことがあって参りました」
「何だ?」
部屋に入るなり彼の兄である花柳大和に尋ねた。真咲が幸運と言ったのは、撫子には上層への確かなパイプがあり、愛野の詳細について聞くのにそう時間がかからないからである。撫子が思慮深く、他人への思いやりが深い人間であったのもおそらく幸運の一つである。
有紗さんについてでございます」
その言葉に大和は眉を顰める。
「何故お前があの人のことを聞く?」
「先程、彼女の婚約者という方がこちらに参りました」
「なんだと…?」
「…遺体、遺品…何でも構わないのです。彼に何かを、返せればとこちらへ」
渋い顔をした大和はやがて硬い表情で首を横に振った。
「あるわけが無い。…わかっているだろう、お前も」
「…そうですか」
「全て海の底だ」
沈黙が満たす。
しばらくして小さな嗚咽が響いた。
「こんなことがありましょうか。…こんな、残酷なことが」
顔を覆った撫子の肩が時折跳ねる。席を立った大和が慰めるように撫子の肩を撫でる。
「……残酷だろうが、これが全てだ。受け入れるしかないだろうよ」

今までずっと追いかけて来たものが急に消えた。真咲には目標が消えた今、向かう場所さえ見えやしない。
守りたかったのに、それだけは絶対に。彼女を、守りたかったのに。
手袋を乱雑に外して、その下にある婚約指輪も取り払う。彼女が軍に行ってからの自分を支えたのはこれだと言うのに、今やこれが存在するだけで自分を苦しめる。不思議と、泣きそうだと思っていたのに、未だに涙は流れやしない。どこか心が壊れて、破片をどこかに落としたのかもしれないな、と馬鹿げた妄想がよぎった。笑い飛ばしてしまうには、あまりに正解に近すぎる。
悔しさと虚しさが、指輪を握る手を振り上げる。こんなものはもう必要ないものだ。こんなもの、死んでしまえばいい。
その時、携帯が鳴った。
はっとしたように真咲は動きを止めて携帯を呆然と見た。しばらく鳴り続ける携帯を見ていたが、どうしてもでなければいけない気がして、のろのろとそれに耳を押し当て相手も確かめずに通話ボタンを押した。
「もしもし、兄さん?全く、起きてるならちゃんと出ろよ………兄さん?どうしたんだ?」
その声を聞いた瞬間に、あれ程流れなかった涙が溢れた。嗚咽が聞こえたのか電話からは焦った声が聞こえる。しばらく泣いた後に小さく笑う。それが聞こえたらしく怒ったような声が聞こえたが、ごめんごめんと謝る。
「真月ちゃんはお兄ちゃんがいなくて寂しくて寂しくて仕方が無いから声が聞きたかったのかな?可愛らしいね」
んなわけねーとか憤慨の声を無視して真咲は言葉を紡ぐ。
「ごめん、真月。ありがとう。今日はおやすみ」
返事は待たずに通話を切った。くすくすと笑ってしまう。何がおかしいでもないけれども、笑い声が止まらない。

まだ、笑える。真咲にはまだ守るべきものがあるではないか。世界がなくたってまだ大丈夫なのだ、立ち上がることもできるではないか。
じっと手の中の指輪に視線を落とし、嵌めなおす。
「ごめん、有紗、少しだけ待ってて」
世界を失って、酷く危ういバランスで真咲は歩き出す。どうしても守りたかったものを守れなかった、その罪悪感を影として引き連れて歩いていく。
酷く疲れた気分だった。もう眠ってしまいたい。寝台に横になり、目を閉じる。
彼女が守りたかった世界を、真咲は守らなければならない。
ほのかに燃える張りぼての志しだけが、真咲の原動力になったのだ。


絶えることなき聖火よ

聖なる炎の皇子らよ

焃獄卿朱雁とその子供達のお話


庭園に押し殺したような泣き声が響いた。
他の何も混じらない純粋な白き髪を持つ子供が泣いていた。唇を噛み締め、声を漏らすまいと、彼女程度の年頃ならばもっと感情的になってもいいだろうに彼女のもとよりの性分なのかどうにも抑え込むきらいにある、否、確かに彼女自身の性質もあるのだろうが、周りが“そうさせた”部分というのが多いのだろう。
彼女の敬愛なる兄姉、そして偉大なる父は燃えるような緋をその身に宿しこの世に誕生した。が、白火がその御髪に宿した色は混じり気ない白、純白であった。明らかに違うその色故に白火は父であるこの和三国が今帝である焃獄卿やその皇子、皇女らとの血の繋がりを疑われた発言を一身に受けてきた。兄や姉は気にするなと白火をたいそう可愛がってくださるのだが、それでもその言葉は幼い白火のその心に大きな不安を与える。また、心ない愚かな者が彼女に与えた言葉は刃となって彼女を傷付け、一人で庭園の端で泣くほどに彼女は悲しんだ。
「白火」
ふと、彼女を呼ぶ声があった。普段あまり聞くことの出来ない、しかし彼女が大好きな声が。
こんなところにその尊き御仁が来る、はずがない。然し、白火がその声を聞き間違うはずもない。涙を拭うのも忘れて振り返った白火の目に、鮮やかな緋が飛び込んだ。
「如何した、白火」
白火に視線を合わせ、彼女の涙を拭う指は優しい。その着物に縋りつこうとして、白火はそっと手を下ろした。彼は着物も汚れるのも気にせずにその場に座る。白火は慌てて声をかけた。
「い、いけません!お着物が、お着物が汚れてしまいます」
「構わぬ」
ふわり、と浮遊感。彼が白火を膝に抱き上げたのだ、と理解した。
「白火、如何した。何故このような場所で嘆く」
その言葉にじっと膝から彼を見上げる。先ほどの言葉が思い出されてまた涙が滲んだ。
「…私と、とう…、帝様、は繋がりがないのでは、と」
つっかえつっかえに出した言葉はやはり悲しくて、だんだんと俯いてしまう。
その言葉を聞いて彼は目を眇めた。
「…白火、そなたの父の名を申してみよ」
「え…か、焃獄卿…」
突然の問いにまた顔を上げて呆然と答えれば違う、と嘆息される。
「そなたの父の、真の名を申してみよ。そなたはそれを知っておろう」
目を見開き彼を凝視する。震える声で、彼の尊き名を呼ぶ。
「…あ、朱雁…様」
褒めるように、彼の、彼女の父でありこの国の王である焃獄卿朱雁の、目が僅かに細められた。
「いかにも。それが俺の名だ。そなたの父の名だ。そして俺が今その名を呼ぶことを許しているのは我が血分けた子のみ。白火、この意味がわかるか」
堪えきれず白火は父にしがみついた。何よりも明らかに、彼は彼女の悲しみを取り去った。
その名を呼ぶことは失礼にあたると、焃獄卿という呼び名が浸透した。その真名を知る者は数え切れる程度である。その中で、許可を得ずに呼ぶことが出来る者、となれば更に限定される。即ち、彼が今言った通り、彼の子供である皇子、紅焔殿下と、一の姫である焔火殿下、そして末の子である二の姫、紛れもない彼女、白火殿下の三名である。
「そなたに無礼を働いたのは何奴か」
「と、父様、私父様が慰めてくださったので十分でございます。罰する必要はどこにも、」
自分のせいで誰かが罰せられるという事実に着物の裾を引く娘に焃獄卿は目を合わせて静かに言った。言い聞かせるように、しっかりと。
「よいか、白火。そなたの父は、守るものを害されたのならばそれを決して許しはしない。例えどのような輩であろうと等しく断罪する。努努、忘れるでない」
それを聞いてしまえば、答えるしかない。やると言ったら、彼は必ず実行してしまう。白火が口を開かずとも、必ずや調べあげ突き止め、断罪してしまう。ならば素直に告げた方が良い。焃獄卿の怒りが、これ以上募ってしまう前に。
「…後宮に勤める、侍女らが」
「あいわかった。白火、そなたの兄らが酷く慌て探しておった。戻るがよい」
そういい立ち上がり膝から彼女を下ろした時、高めの声と慌ただしい足音が聞こえた。
「白火!ようやく見つけましたわ!こんなところまで来て…まあ、父様がご一緒でしたのね」
「とても心配したんだぞ…父様、こちらにお出でだったんですね」
慌ただしく白火に駆け寄り、安堵したように微笑みを向けると彼女の兄姉である皇子と一の姫、紅焔と焔火は焃獄卿に深く礼をした。
「兄様、姉様」
「また何か誰かに言われたか?」
「心配するではありませんか!もう勝手にどこかに行ってはなりませんわ、あっても乳母や侍女を連れてくださいませ」
矢継ぎ早に浴びせられる言葉はどれも白火を案じる言葉だ。勝手に出てきたことを深く反省して白火は微笑んだ。
「心配をおかけして申し訳ございません、兄様、姉様」
いつの間に、悲しみはどこかへ消えている。顔をあげれば焃獄卿がこちらを見ていた。その目はとても穏やかなものだ。「俺は執務に戻る。そなたらもいつまでもこのようなところにおらず戻るがよい」
父の言葉に三人の子供は返事を返す。
この愛しい家族への誇らしさが、部屋に戻る白火の胸に満たされていた。



焃獄卿ファミリーの末の娘、白火の話。
上から長男紅焔(こうえん)、長女焔火(ほむらひ)、次女白火(しらひ)。
紅焔が13、焔火が12、白火が9歳くらい。そんなんでよければCPとか募集してます…焃獄卿も紅焔達の母である妃が亡くなって傷心ですがCPとか気になれば…(?)

紅焔(ホウオウ)…和三国の皇子。長男。13歳。しっかり者で妹想い。お父さんの力になりたくて勉強中。真面目な性格。武術の鍛錬に励む。弱い者を守りたい精神。
焔火(ホウオウ)…一の姫。長女。12歳。お嬢様言葉で強気な性格であるが他人を思いやるいい子。人のためを優先出来る子。妹めっちゃ可愛がってる。兄は尊敬してる。
白火(★ホウオウ)…父や兄姉と違う色彩を持つが故に血の繋がりを疑われる。二の姫。次女。9歳。自分に自信がなく控えめな性格。人前で泣かない。

こんな子たち。よろしくお願いします…

ここに正義は誓いをたてる

始動する、意地汚なく這いつくばるような物語。



叢樹(そうじゅ)という言葉を耳にして快く思う人物は普通はいない。
彼らがすることは一方的な蹂躙であり制圧である。残酷で一片の慈悲もない行いに人々は顔を背ける。それほどまでに彼らのしてきた悪道の数々は、凄惨である。
叢樹に巻き込まれたら命はないと思え、とは暗黙の了解であった。誰もがその名を聞くだけで心の奥にひやりと冷気が吹くような、ありふれた日常に潜む純粋なる悪意、ありきたりを脅かす、闇のようなもの。それが、叢樹である。

叢樹の創始者にしてリーダー、フォレストは目の前の客人にゆるりと笑った。フォレストが歩いていたら急に声をかけられた、というのが正しいので正確にはもてなすような客人という表現は当てはまらないのかもしれない。しかし、訪ねてくる人物として彼女はこれ以上ない人であった。
白金色の髪は傷一つない至宝、足元まで流れるそれに乱れはない。滑らかな肌も、人とは一線を画する崇高な輝きを持つ目も、どれをとっても他の追随を許さぬ美女。神さえ従える絶世の女子神、イナンナ。
「お久しぶりですね、フォレスト。調子は良さそうで、なによりですわ」
唇に乗った微笑みは穏やかなものである。フォレストも笑顔で答える。
「貴方と会うことになるとは。久しぶりだねイナンナ」
「私が来た意味は理解していますね?」
問いではなく、それは断定であった。フォレストは笑みを崩さない。否定も、肯定もしない。
「私自らが出向くその意味をよく考えなさい」
かちゃりという音と共に、いつの間に取り出したのかイナンナは上段に武器を構える。
「このままでは世界は戦火に巻き込まれる。それだけならまだ許容します。…貴方は自分が何をしているのか、理解しているのですか?」
イナンナの瞳は凪いでいる。武器を構え、いつでもフォレストを殺しにかからんとしながら、その目はどこまでも静かだ。罪の在り方を詰問するように、責めるように、あるいは許しを乞うのを待つように。結局は、その目を見た当人の主観次第でそれは変わる。
「戦争が起こる。…ただの戦争ではありません。人の世だけでなく、神までもを巻き込んだかつてない戦争が」
クッと笑うようにフォレストの喉が鳴る。返事はそれだけであった。しかし、それだけで十分であった。
イナンナは迷いなく踏み出そうとして---だがそれはフォレストとは逆の方向に跳ぶ結果となった。
イナンナが先ほどまで立っていた場所には無数の花弁と氷柱が突き刺さっている。さながら、小さな嵐の後のような凄まじい勢いであった。
「お怪我はございませんか、フォレスト様」
「大丈夫だよ」
現れた二人の青年にフォレストは微笑みかける。青年の片割れ、和傘を持った青年はフォレストに近付き怪我の有無を確認する。
青年付近にははなびらがひらりひらりと降っている。いや、違う。彼の持つ和傘の内側からあらゆる種類の花弁が降り続けているのだ。もう一人の青年はイナンナを警戒してるらしい。重苦しいロングコートのフードを後ろに流し、ブロンドの髪が光っている。彼の周囲だけ、やけに冷気が立ち込めている気がする。
怪訝なその力に思い至ったイナンナは顔を顰める。
「…やはり、その力を盗み出したのは貴方だったんですね。神にも至る力、神を殺し得る存在…メガ進化、ですか」
「その通り。ただ盗み出したはいいけど、途中で失敗してメガストーンは世界に散り落ちた。…即ち資格さえあれば一般人までメガ進化出来るようになってしまった…大きな誤算だった。さて、どうするイナンナ?流石の騎士王様もこれは分が悪いのでは?」
イナンナは悔しそうに唇を噛む。今ここで討たねばならぬ首をみすみす逃すことになったのだ。たとえ今殺せたとしてもイナンナへの被害も大きい。そして何より、人が神への抵抗の策を得た今、“ここでフォレストを討っても叢樹は止まらない”。
「…何が、目的ですか?我々の中でも、人一倍正義感に厚い貴方が、なにゆえこのような愚策を取る?」
イナンナの手に力がこもる。これはここまで泳がせておいたイナンナの完璧な失策であった。世界は確実に、破壊への一手を歩んでいる。
「…ふふ、目的か。私が目指すものはただ一つ、即ち、完全なる世界。誰も苦しむことない平和な理想郷」
語るフォレストの目に冗談の色は無い。完全なる世界、理想郷。それを作り上げるのだと。
「叢樹が此の世のありとあらゆる悪道を極めた時、“この世界の全ての善悪は入れ替わる”。叢樹は正義になり、それ以外は数多の悪となる。…わかる、イナンナ?」
くすくすと笑うフォレストの口から紡がれる叢樹の意思の意図をイナンナはまだ掴み切れてはいない。ただ、止めなければならないことだけは確かだった。
「…此度は撤退いたします。ただし、次はないと思いなさい、フォレストの坊や。改めて忠告いたします、私、“騎士王”イナンナが動くことの意味をよく考えなさい」
そう言ってイナンナは退く。フォレストは家族とも言える部下二人を見やった。
「ありがとう、セズ、キイト」
「構わない」
「大丈夫ですよ」
とうの昔に始まっているのだ。これはそれを周りに告げただけの話である。
フォレスト率いる叢樹は掲げる“欠けることなき完全世界”への道をただ進むだけである。そこに女神の干渉があるなら退けよう、争いが生まれるならそれを乗り越えよう。

賽はとうに投げられた。停滞していた流れが一度動き出してしまえば、あとは決められた勝者の声(エンドロール)までは瞬きの間である。
天上天下を巻き込む、世界の全てをかけた戦争の開幕である。



うちのお話はこんな舞台です。
フォレストをイナンナが裁きにきたことですでに世界の歪、火種は取り返しのつかないことが発覚してからうちの子が総出で自分のわがままのために戦う…
とはいえ多分これはもうちょい先の話で今はめっちゃ平和()
水面下と叢樹は穏やかじゃないけどめっちゃ平和()
拙いめっちゃつまんなそうな世界観ですがこんな感じで一つよろしくお願いします☆〜(ゝ。∂)

願い事を叶えましょう

くだらない、取るに足らない幻想を。



その少年は街を歩いていた。ころころと変わる表情は年相応で見ていて気持ちがいい。そんな少年をじっと見ている姿があった。少年はふとその視線に気付いたようでその主を見やった。
「何か俺に用事?」
首を傾げて尋ねる少年に、返ってきた言葉はいまいち的を得ていない。曰く、やっと見つけたのだと。だが、言われた方であるその少年はそれだけで全てを察したらしい。表情豊かなその顔を顰めて溜息を一つ、零した。
「ああ…俺が何であるかを理解してここまで来たんだ?…なら、しょうがないか」
少年が腕を挙げた瞬間に世界は崩壊し、満天の星空へと変わる。一瞬にしてどこか別の場所に飛ばされたのだと理解した。
変化は空間だけではない、少年にも変化があった。服装は和の装い、そして先程までよく変わった表情は能面のように冷め切っていた。
「ここは俺の所有する地、星見の劇場。俺を頼ってきた愚か者、お前の願いを叶えよう」
淡々と少年は語る。願い事を叶えようと。
「ここまで辿り着いたお前に最低限の敬意を払って、一応名乗ってやろう。俺はただの凡人…と名乗れたらよかったのだがな。望んではいないが“救恤王”と呼ばれる、名をカタストロフという、神だ」
少年、もといカタストロフと名乗った神は相手に構うことなく続ける。
「さて、お前の願いとやらと聞かせてもらおうか。ただし、俺はそれに見合うか、それ以上の代償を奪う」
そんなの聞いていない、理不尽だと詰る声にカタストロフは嗤った。
「理不尽?理不尽と言うか!笑わせてくれる。お前が頼ってきた力は理不尽の権化であろう。運命の糸を千切り、結び直す。そんな力が理不尽以外の何ものでもあるはずがない」
理不尽であるのは当たり前だ、然してそれを受け入れろ。そう幼い姿の神は云う。
「人に在らず、そのようなものを求めてきたのだ。覚悟はあろう?これが旅人知らずの寂れた水車小屋であればお前は理不尽故に今頃『空間ごと潰されて』存在ごと死んでいような。俺とてこんな力なければとっくにお前を殺してる。つまり、神とはそういうものだ」
余談だが旅人知らずの水車小屋、という地名の指す場所にいる神の気は短い。何故ならば彼は彼の認めた唯一以外の他を認めないからだ。空間を司るその神は自分と唯一の為だけに作り上げた空間に侵入したものを容赦無く潰すだろう。直接手を下すまでもなく、ただそのこの世にあってこの世ではない位置に存在する自身が作り上げた空間ごと潰す。そして彼の唯一の人と全く同じ形の新しい空間に素知らぬ顔で移るだろう。だがこれはまた別の話である。
それはそれとして、幼い声はまだ止まない。聞き分けのない子供に寝物語を語るが如くに、時に優しく、時に淡々と、声はまだ流れる。
「お前の願いは個人的には叶えたくはない類のものだがな…。余りイナンナに目を付けられるのも良いことではない。…ああ、心配するな。俺個人が嫌がっても俺の力はお前の願いを叶えるさ。だからこそ俺は代償を奪う」
ぎゃんぎゃんと騒ぐ自分より劣る存在に冷めた視線を送る。まだ、立場が理解出来ていないのか。
先述したのは旅人知らずの水車小屋に住まう神であったが、別に例は誰でも良いのである。たとえそれが慈悲深き女神イナンナであっても彼女が人を超える存在である事実は揺らがない。人如きが彼女の機嫌を損ねるならば、それこそ生きて帰れる確率なんて考えるまでもない。
「…今まで叶えた願いの代償を教えろと?はて、多過ぎて語るのも難しいが…これ以上失うものは無い、だからどうか。そう言ったやつはだいたい…耐えきれずに潰れたか」
もとより、彼を頼った時点で願いを叶えその代償に耐え切ったものは数えるほどなのだ。耐えたとしても、叶った願いだけを拠り所にするしかない生になるのだが。
「さあ、人の子よ。代償を払ってもいいと言うのならば、哀願しろ跪け希え」
堂々と、絶対的な圧力で以って告げる。
「…しかし、今ならまだ何もなく返してやる。願いを叶えるか、それともこのまま帰るか。それくらいは選択の余地を与えてやろうともさ」
彼の人間が願いを叶えたか否かは、その神のみぞ知るところである。




力尽きたし飽きたからここでぶった切ろう(提案)
うちのジラーチ、願いを叶える彼のお話。

“救恤王”カタストロフ(ジラーチ)…少年の姿をした神様。普段はめちゃくちゃ明るい年相応の少年。神様としての仕事してるときだけ高圧的で神様っぽい。別に人間に混じってるときにキャラ作りしているとかではなくどちらも素で公私を分ける感覚に近い。カタストロフの伝承を知った上で彼を探し出した人間の願いを叶えるのが仕事。本人は良しと思ってはいないが力は勝手に叶えてしまうからしょうがない。

こんな子ですよろしくお願いします…

【随時更新】創作うちの子一覧【pkg外】

pkg以外のキャラの一覧ですー参考程度によろしくお願いします!
時間があるときにぼちぼち作成

アイドル
緑原蛍

高校生
-3年-
蓮美総月…鈴萄さん宅叶星さんの兄
恋谷瀬尾
-2年-
高見透
美濃龍規
-1年-
朝野杏奈
恋谷イリーナ

軍人
-海軍-
【中将】リカルド…瀬名紫蘭双葉さん
【大佐】リュート…鈴萄さん宅桐生千鳥さん
【大佐】逆瀬川
【大佐】深江詠
【中佐】守谷真咲…鈴萄さん宅浅葱桔梗さん
【中尉】八尾真尋…呉兎ちゃん宅色摩紬さん
曹長】守谷真月
【元大将】宇梶斐散…呉兎ちゃん宅日和さん
-空軍-
【少将】花柳大和
【准将】黒崎蓮…れーちゃん宅霜月さん
【大佐】天白念
【中佐】円成寺風兎…鈴萄さん宅九鬼雷鳥さん
【中佐】花柳撫子
【大尉】河瀬晃…鈴萄さん宅月雲木菟さん
-陸軍-
【准将】円成寺雷兎…れーちゃん宅陽本凪さん
【大佐】火村大牙…ぷーちゃん宅デューティさん
【大佐】主代美鶴
【中佐】仙道陣謡…鈴萄さん宅浅葱隼さん
【少尉】播磨小陽…瀬名橘右京さん
【特務曹長】綿貫冥嘉…瀬名宅青桐左近さん

敵軍
-海軍-
【准将】ヴィンセント
【中佐】イルミ
【少佐】浩
-空軍-
【大将】マリノス
【大佐】オリヴィエ
【中佐】エリサ
【少佐】リナリ
【少尉】リヒト
-陸軍-
【中将】デイロット
【中尉】ウィグレット
【少佐】ミラン

囚人と看守
-囚人-
0303(ヒナ)(高砂渚南)
039(嶋崎朔)
871(菱川花灯)
971(帯刀久那伊)
-看守-
高砂渚織…鈴萄さん宅和水さん
安達愛架
雑賀蒼
都田荊…呉兎ちゃん宅遊馬伊吹さん
都田剣

男性化
楠雲母(フリーター)
須賀野蜜月(作家、蜜児蝶乃)…鈴萄さん宅杙奈さん
狩谷墨染(花屋)

騎士と姫
朔耶…自宅久世
久世…自宅朔耶
オフィリア…自宅ジークベルト
ジークベルト…自宅オフィリア

烏の濡れ羽色の

私が見出した光。



その目が嫌いだったのだ。見下すような、クズを見るような、自分がまるで全裸を見られているような屈辱と羞恥心を髣髴とさせるその目が、ウィンクスは嫌いだったのだ。
服も髪も乱れ、目も当てられないような悲惨な状況の妹を見てさえ眉一つ動かさないその男にウィンクスは白くなるほど手を力強く握りしめた。そうでもしないと、これ以上惨めになりそうで恐ろしかった。
「…あの程度のおつかいもお前はこなせないか?ウィンクス」
冷たいため息に肩がビクリと跳ねた。
媚を売ることに躊躇いがないわけではなかった。素肌を見せることに羞恥があるわけではなかった。綺麗な体が、惜しいわけでもなかった。言い訳は所詮言い訳でありウィンクスの仕事の段取りがすこぶる良くないのは不変の事実だった。
「一度頭を冷やすことだな。しばらくは顔を見せるな」
冷徹な言葉に逆らう術はなかった。椰蜘蛛会を統べる男、ウィンクスの異母兄ヤグモの言葉ほどこの場で絶対のものはない。そして、この場においてウィンクスの立場ほど軽いものはない。生まれたその瞬間からこの家にウィンクスの居場所はなかった。
たった今捨てられたウィンクスを下品な目で見る黒いスーツの男共の視線が気持ち悪い。これ以上、汚れることも惨めになるのもごめんだった。
せめて堂々としていたかった。ここで怯えれば、ウィンクスにはもう守るべき最低限のプライドさえなくなる気さえしていた。つまりは、意地なのだ。
「出て行く前に俺の相手をしねぇ?」
ウィンクスにニヤニヤと絡んだ男を力の限り腕を引き勢いでそのまま倒す。
「うるさい。道を開けろ…二度と私に下世話な話題を振るな、畜生共」
静かな声だったがそれはこの空間に響いた。ウィンクスは迷いない足取りで広間の出口へ向かう。その背中に向けられていた視線は、やはりウィンクスの嫌いなそれであった。

アントーカは路地裏で何か動いた気がしてそちらに目を向けた。暗闇の中には何も見えない。首を傾げてから近付く。好奇心が強い方なんだ、と口の中で呟いて。
「んー…なんだ、猫じゃん」
「…何よ、あんた」
猫、というか猫みたいな印象を受ける女。プライドん高い印象を与える強い目の女だった。
アントーカはとりあえず、と適当に上着を放り投げる。
「とりあえずそれどうぞ」
「…どっか行きなさいよ」
上着は一応着はしたが警戒心は消えないらしい。どっか行け、という言葉にアントーカは従おうとしたがあ、と声をあげる。
「なぁ、お前行くとこないの?」
「…帰る場所はどこにもないわ」
「へー」
うんうんと頷くアントーカを女は訝しげに見ていた。
「じゃあさ、アンタ俺に拾われてみねぇ?」
「…?」
「俺はアントーカ。これから歴史に名を刻む男だね。ところでアンタ書類整理とか事務仕事出来る?」
「まぁ、人並みには」
「あ、あとお金、スキ?」
お金が好きか、とはまた風変わりな質問である。いや、路上に捨てられた女ほどではないか。少し遅れて女は頷いた。
「人ほど簡単にお金は裏切らないわ」
「成る程、真理だ。アンタわかってるね」
ニッと笑うとアントーカは女に手を差し伸べる。
「お前、俺が拾ってやるよ」
どこまでも上からな言葉に、されど対等に差し出された手を見て女は笑い出した。
「ふふっあははっ!普通道端の女をホイホイ拾う!?…いいわ、クソガキ。拾われてあげるわ」
そう言って女、ウィンクスはアントーカの手を取った。

小さな事務所でウィンクスはため息をついた。
始まったばかりでまだまだウィンクスとアントーカの道は前途多難である。
アントーカに拾われたウィンクスが連れられたのは小さな小さな銀行だった。あれからアントーカの才能はかなりのものだったらしくすぐに小さな発展を繰り返した。それでもまだまだ小さい。

手っ取り早くコネを作るならば、とウィンクスは頭にあったそれを実行に移そうと事務所の扉に手を伸ばした。体でも、売ればいい。今更である。第一に大きな発展を得ようとすれば必要になるのはクロい方法である。少なくともそういう世界しか見てこなかったウィンクスはそのような手腕しか知らないのである。一般人の生活は、誰かの思惑の上に成り立つのだ。

ふとウィンクスの手を横からアントーカが掴む。

「…何、クソガキ」

「何をする気だ?」

その顔に張り付いた笑みはウィンクスの思考を奥底まで見通してるような錯覚さえさせる。純粋に、不安が這い上がってくる。

「ダメだ」

「…何が」

「ウィンクス、お前を拾ったのは誰だ?」

「…アントーカ」

ウィンクスは呆然と掴まれた手を眺めた。アントーカは笑って囁く。宥めるような、優しい声音。

「ああ。アンタは俺のウィンクスだろうが」

「アントーカ…?」

「俺のものを粗雑に扱うな」

ウィンクスは矢鱈に自分の体を乱雑に扱った。徹夜も過労も、暴力沙汰や強盗に首を突っ込みやすいのも。

アントーカの宥めるような声音に、初めて自分の居場所というものを認識したような気になった。冷めた世界で初めて見た色に、それはあまりにも似ていた。烏の濡れ羽色の瞳は、子供に向けるように優しく細められていた。唇を噛み締めてうつむくウィンクスは、涙こそ出ていないが確かに泣いていた。


もうちょい続きあったんですがちょっと訳あってここで区切ります。かけるようになったら加筆します。


ウィンクスと、アントーカ。

クソガキと、俺のウィンクスと。

二人きりの世界

鍵を捨てた鳥籠。


ドキドキと静かな夜に自分の鼓動がひどくうるさい。流れる不快な汗はぽたりぽたりと上着にまるで自分の中の不安を表すように染みを作る。音を立てずにベッドから降りて一直線に隣の部屋へ向かう。
昔から人付き合いが上手くなかった。ありとあらゆるものを力で征服していた。そんな自分とは反対の優しい彼は、不器用な自分には救いのように思えた。いかないで、いかないで、いかないで。
枕元に立っても彼は起きやしない。それほど信用されていると言うのか…?ベッドに乗り上げればギシリとベッドの軋む音。うっすらと開かれた綺麗なキラキラとした目が自分の目と合う。綺麗な彼の目に映る自分の、いかに酷い姿か。
「ごめん、ごめんなさい」
「ん…どうして謝るの、ハルト」
彼が自分に贈った名に歓喜する。ぎゅっと目を瞑って彼の頬に手を伸ばす。
「どこにも行かないで、イリス…行くな!」
縋るように体重をかけて叫ぶ。頬の手は瞼の上に移動していた。
「ハル…っ」
悲しそうな、悔しそうな目が最後に自分が見た彼の目だった。
彼の目は俺の手中、視界がなければ神といえど勝手にいなくなることはないと思ったから。
鍵は、捨てた。俺は出る気はさらさらないから。

どこにも行って欲しくなくて目を奪ってしまった臆病者と、受け入れる聖者。

旅人知らずの水車小屋と神が呼ぶそこは、普通の者には辿り着けない空間を司る神の作った場所。

“聖王”イリスアテナ(ディアルガ♂)…時間を司る神。どうでもいいといった風に見えて一度首を突っ込んだら最後まで面倒みる。お人好し。目が見えなくても水車小屋の近場なら散歩してる。別に目を取られたことには怒ってないしハルトは手のかかる子供だと思ってる。
征服王”ハルトモニカ(パルキア♂)…空間を司る神。不器用な性格で人付き合いが苦手。故に自分を受け入れてくれるものに依存しやすい。イリスに酷く固執してイリスがいなくなってしまったらという不安からイリスの目を奪う。子供みたいなもの()
本来の名前はアテナとモニカ。イリス、ハルトという部分は互いに贈った名前です。故にハルトはイリス以外にハルトと呼ばれるのを嫌います。イリスはそうでもない()

ホモじゃないです…()
イリスをハルトから引きはがす人というイリスを連れ出す人とかそのせいで発狂したハルトを受け入れる人とかいないかな()
こんなのですよろしくお願いします!