臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

願い事を叶えましょう

くだらない、取るに足らない幻想を。



その少年は街を歩いていた。ころころと変わる表情は年相応で見ていて気持ちがいい。そんな少年をじっと見ている姿があった。少年はふとその視線に気付いたようでその主を見やった。
「何か俺に用事?」
首を傾げて尋ねる少年に、返ってきた言葉はいまいち的を得ていない。曰く、やっと見つけたのだと。だが、言われた方であるその少年はそれだけで全てを察したらしい。表情豊かなその顔を顰めて溜息を一つ、零した。
「ああ…俺が何であるかを理解してここまで来たんだ?…なら、しょうがないか」
少年が腕を挙げた瞬間に世界は崩壊し、満天の星空へと変わる。一瞬にしてどこか別の場所に飛ばされたのだと理解した。
変化は空間だけではない、少年にも変化があった。服装は和の装い、そして先程までよく変わった表情は能面のように冷め切っていた。
「ここは俺の所有する地、星見の劇場。俺を頼ってきた愚か者、お前の願いを叶えよう」
淡々と少年は語る。願い事を叶えようと。
「ここまで辿り着いたお前に最低限の敬意を払って、一応名乗ってやろう。俺はただの凡人…と名乗れたらよかったのだがな。望んではいないが“救恤王”と呼ばれる、名をカタストロフという、神だ」
少年、もといカタストロフと名乗った神は相手に構うことなく続ける。
「さて、お前の願いとやらと聞かせてもらおうか。ただし、俺はそれに見合うか、それ以上の代償を奪う」
そんなの聞いていない、理不尽だと詰る声にカタストロフは嗤った。
「理不尽?理不尽と言うか!笑わせてくれる。お前が頼ってきた力は理不尽の権化であろう。運命の糸を千切り、結び直す。そんな力が理不尽以外の何ものでもあるはずがない」
理不尽であるのは当たり前だ、然してそれを受け入れろ。そう幼い姿の神は云う。
「人に在らず、そのようなものを求めてきたのだ。覚悟はあろう?これが旅人知らずの寂れた水車小屋であればお前は理不尽故に今頃『空間ごと潰されて』存在ごと死んでいような。俺とてこんな力なければとっくにお前を殺してる。つまり、神とはそういうものだ」
余談だが旅人知らずの水車小屋、という地名の指す場所にいる神の気は短い。何故ならば彼は彼の認めた唯一以外の他を認めないからだ。空間を司るその神は自分と唯一の為だけに作り上げた空間に侵入したものを容赦無く潰すだろう。直接手を下すまでもなく、ただそのこの世にあってこの世ではない位置に存在する自身が作り上げた空間ごと潰す。そして彼の唯一の人と全く同じ形の新しい空間に素知らぬ顔で移るだろう。だがこれはまた別の話である。
それはそれとして、幼い声はまだ止まない。聞き分けのない子供に寝物語を語るが如くに、時に優しく、時に淡々と、声はまだ流れる。
「お前の願いは個人的には叶えたくはない類のものだがな…。余りイナンナに目を付けられるのも良いことではない。…ああ、心配するな。俺個人が嫌がっても俺の力はお前の願いを叶えるさ。だからこそ俺は代償を奪う」
ぎゃんぎゃんと騒ぐ自分より劣る存在に冷めた視線を送る。まだ、立場が理解出来ていないのか。
先述したのは旅人知らずの水車小屋に住まう神であったが、別に例は誰でも良いのである。たとえそれが慈悲深き女神イナンナであっても彼女が人を超える存在である事実は揺らがない。人如きが彼女の機嫌を損ねるならば、それこそ生きて帰れる確率なんて考えるまでもない。
「…今まで叶えた願いの代償を教えろと?はて、多過ぎて語るのも難しいが…これ以上失うものは無い、だからどうか。そう言ったやつはだいたい…耐えきれずに潰れたか」
もとより、彼を頼った時点で願いを叶えその代償に耐え切ったものは数えるほどなのだ。耐えたとしても、叶った願いだけを拠り所にするしかない生になるのだが。
「さあ、人の子よ。代償を払ってもいいと言うのならば、哀願しろ跪け希え」
堂々と、絶対的な圧力で以って告げる。
「…しかし、今ならまだ何もなく返してやる。願いを叶えるか、それともこのまま帰るか。それくらいは選択の余地を与えてやろうともさ」
彼の人間が願いを叶えたか否かは、その神のみぞ知るところである。




力尽きたし飽きたからここでぶった切ろう(提案)
うちのジラーチ、願いを叶える彼のお話。

“救恤王”カタストロフ(ジラーチ)…少年の姿をした神様。普段はめちゃくちゃ明るい年相応の少年。神様としての仕事してるときだけ高圧的で神様っぽい。別に人間に混じってるときにキャラ作りしているとかではなくどちらも素で公私を分ける感覚に近い。カタストロフの伝承を知った上で彼を探し出した人間の願いを叶えるのが仕事。本人は良しと思ってはいないが力は勝手に叶えてしまうからしょうがない。

こんな子ですよろしくお願いします…