臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

ここに正義は誓いをたてる

始動する、意地汚なく這いつくばるような物語。



叢樹(そうじゅ)という言葉を耳にして快く思う人物は普通はいない。
彼らがすることは一方的な蹂躙であり制圧である。残酷で一片の慈悲もない行いに人々は顔を背ける。それほどまでに彼らのしてきた悪道の数々は、凄惨である。
叢樹に巻き込まれたら命はないと思え、とは暗黙の了解であった。誰もがその名を聞くだけで心の奥にひやりと冷気が吹くような、ありふれた日常に潜む純粋なる悪意、ありきたりを脅かす、闇のようなもの。それが、叢樹である。

叢樹の創始者にしてリーダー、フォレストは目の前の客人にゆるりと笑った。フォレストが歩いていたら急に声をかけられた、というのが正しいので正確にはもてなすような客人という表現は当てはまらないのかもしれない。しかし、訪ねてくる人物として彼女はこれ以上ない人であった。
白金色の髪は傷一つない至宝、足元まで流れるそれに乱れはない。滑らかな肌も、人とは一線を画する崇高な輝きを持つ目も、どれをとっても他の追随を許さぬ美女。神さえ従える絶世の女子神、イナンナ。
「お久しぶりですね、フォレスト。調子は良さそうで、なによりですわ」
唇に乗った微笑みは穏やかなものである。フォレストも笑顔で答える。
「貴方と会うことになるとは。久しぶりだねイナンナ」
「私が来た意味は理解していますね?」
問いではなく、それは断定であった。フォレストは笑みを崩さない。否定も、肯定もしない。
「私自らが出向くその意味をよく考えなさい」
かちゃりという音と共に、いつの間に取り出したのかイナンナは上段に武器を構える。
「このままでは世界は戦火に巻き込まれる。それだけならまだ許容します。…貴方は自分が何をしているのか、理解しているのですか?」
イナンナの瞳は凪いでいる。武器を構え、いつでもフォレストを殺しにかからんとしながら、その目はどこまでも静かだ。罪の在り方を詰問するように、責めるように、あるいは許しを乞うのを待つように。結局は、その目を見た当人の主観次第でそれは変わる。
「戦争が起こる。…ただの戦争ではありません。人の世だけでなく、神までもを巻き込んだかつてない戦争が」
クッと笑うようにフォレストの喉が鳴る。返事はそれだけであった。しかし、それだけで十分であった。
イナンナは迷いなく踏み出そうとして---だがそれはフォレストとは逆の方向に跳ぶ結果となった。
イナンナが先ほどまで立っていた場所には無数の花弁と氷柱が突き刺さっている。さながら、小さな嵐の後のような凄まじい勢いであった。
「お怪我はございませんか、フォレスト様」
「大丈夫だよ」
現れた二人の青年にフォレストは微笑みかける。青年の片割れ、和傘を持った青年はフォレストに近付き怪我の有無を確認する。
青年付近にははなびらがひらりひらりと降っている。いや、違う。彼の持つ和傘の内側からあらゆる種類の花弁が降り続けているのだ。もう一人の青年はイナンナを警戒してるらしい。重苦しいロングコートのフードを後ろに流し、ブロンドの髪が光っている。彼の周囲だけ、やけに冷気が立ち込めている気がする。
怪訝なその力に思い至ったイナンナは顔を顰める。
「…やはり、その力を盗み出したのは貴方だったんですね。神にも至る力、神を殺し得る存在…メガ進化、ですか」
「その通り。ただ盗み出したはいいけど、途中で失敗してメガストーンは世界に散り落ちた。…即ち資格さえあれば一般人までメガ進化出来るようになってしまった…大きな誤算だった。さて、どうするイナンナ?流石の騎士王様もこれは分が悪いのでは?」
イナンナは悔しそうに唇を噛む。今ここで討たねばならぬ首をみすみす逃すことになったのだ。たとえ今殺せたとしてもイナンナへの被害も大きい。そして何より、人が神への抵抗の策を得た今、“ここでフォレストを討っても叢樹は止まらない”。
「…何が、目的ですか?我々の中でも、人一倍正義感に厚い貴方が、なにゆえこのような愚策を取る?」
イナンナの手に力がこもる。これはここまで泳がせておいたイナンナの完璧な失策であった。世界は確実に、破壊への一手を歩んでいる。
「…ふふ、目的か。私が目指すものはただ一つ、即ち、完全なる世界。誰も苦しむことない平和な理想郷」
語るフォレストの目に冗談の色は無い。完全なる世界、理想郷。それを作り上げるのだと。
「叢樹が此の世のありとあらゆる悪道を極めた時、“この世界の全ての善悪は入れ替わる”。叢樹は正義になり、それ以外は数多の悪となる。…わかる、イナンナ?」
くすくすと笑うフォレストの口から紡がれる叢樹の意思の意図をイナンナはまだ掴み切れてはいない。ただ、止めなければならないことだけは確かだった。
「…此度は撤退いたします。ただし、次はないと思いなさい、フォレストの坊や。改めて忠告いたします、私、“騎士王”イナンナが動くことの意味をよく考えなさい」
そう言ってイナンナは退く。フォレストは家族とも言える部下二人を見やった。
「ありがとう、セズ、キイト」
「構わない」
「大丈夫ですよ」
とうの昔に始まっているのだ。これはそれを周りに告げただけの話である。
フォレスト率いる叢樹は掲げる“欠けることなき完全世界”への道をただ進むだけである。そこに女神の干渉があるなら退けよう、争いが生まれるならそれを乗り越えよう。

賽はとうに投げられた。停滞していた流れが一度動き出してしまえば、あとは決められた勝者の声(エンドロール)までは瞬きの間である。
天上天下を巻き込む、世界の全てをかけた戦争の開幕である。



うちのお話はこんな舞台です。
フォレストをイナンナが裁きにきたことですでに世界の歪、火種は取り返しのつかないことが発覚してからうちの子が総出で自分のわがままのために戦う…
とはいえ多分これはもうちょい先の話で今はめっちゃ平和()
水面下と叢樹は穏やかじゃないけどめっちゃ平和()
拙いめっちゃつまんなそうな世界観ですがこんな感じで一つよろしくお願いします☆〜(ゝ。∂)