臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

絶えることなき聖火よ

聖なる炎の皇子らよ

焃獄卿朱雁とその子供達のお話


庭園に押し殺したような泣き声が響いた。
他の何も混じらない純粋な白き髪を持つ子供が泣いていた。唇を噛み締め、声を漏らすまいと、彼女程度の年頃ならばもっと感情的になってもいいだろうに彼女のもとよりの性分なのかどうにも抑え込むきらいにある、否、確かに彼女自身の性質もあるのだろうが、周りが“そうさせた”部分というのが多いのだろう。
彼女の敬愛なる兄姉、そして偉大なる父は燃えるような緋をその身に宿しこの世に誕生した。が、白火がその御髪に宿した色は混じり気ない白、純白であった。明らかに違うその色故に白火は父であるこの和三国が今帝である焃獄卿やその皇子、皇女らとの血の繋がりを疑われた発言を一身に受けてきた。兄や姉は気にするなと白火をたいそう可愛がってくださるのだが、それでもその言葉は幼い白火のその心に大きな不安を与える。また、心ない愚かな者が彼女に与えた言葉は刃となって彼女を傷付け、一人で庭園の端で泣くほどに彼女は悲しんだ。
「白火」
ふと、彼女を呼ぶ声があった。普段あまり聞くことの出来ない、しかし彼女が大好きな声が。
こんなところにその尊き御仁が来る、はずがない。然し、白火がその声を聞き間違うはずもない。涙を拭うのも忘れて振り返った白火の目に、鮮やかな緋が飛び込んだ。
「如何した、白火」
白火に視線を合わせ、彼女の涙を拭う指は優しい。その着物に縋りつこうとして、白火はそっと手を下ろした。彼は着物も汚れるのも気にせずにその場に座る。白火は慌てて声をかけた。
「い、いけません!お着物が、お着物が汚れてしまいます」
「構わぬ」
ふわり、と浮遊感。彼が白火を膝に抱き上げたのだ、と理解した。
「白火、如何した。何故このような場所で嘆く」
その言葉にじっと膝から彼を見上げる。先ほどの言葉が思い出されてまた涙が滲んだ。
「…私と、とう…、帝様、は繋がりがないのでは、と」
つっかえつっかえに出した言葉はやはり悲しくて、だんだんと俯いてしまう。
その言葉を聞いて彼は目を眇めた。
「…白火、そなたの父の名を申してみよ」
「え…か、焃獄卿…」
突然の問いにまた顔を上げて呆然と答えれば違う、と嘆息される。
「そなたの父の、真の名を申してみよ。そなたはそれを知っておろう」
目を見開き彼を凝視する。震える声で、彼の尊き名を呼ぶ。
「…あ、朱雁…様」
褒めるように、彼の、彼女の父でありこの国の王である焃獄卿朱雁の、目が僅かに細められた。
「いかにも。それが俺の名だ。そなたの父の名だ。そして俺が今その名を呼ぶことを許しているのは我が血分けた子のみ。白火、この意味がわかるか」
堪えきれず白火は父にしがみついた。何よりも明らかに、彼は彼女の悲しみを取り去った。
その名を呼ぶことは失礼にあたると、焃獄卿という呼び名が浸透した。その真名を知る者は数え切れる程度である。その中で、許可を得ずに呼ぶことが出来る者、となれば更に限定される。即ち、彼が今言った通り、彼の子供である皇子、紅焔殿下と、一の姫である焔火殿下、そして末の子である二の姫、紛れもない彼女、白火殿下の三名である。
「そなたに無礼を働いたのは何奴か」
「と、父様、私父様が慰めてくださったので十分でございます。罰する必要はどこにも、」
自分のせいで誰かが罰せられるという事実に着物の裾を引く娘に焃獄卿は目を合わせて静かに言った。言い聞かせるように、しっかりと。
「よいか、白火。そなたの父は、守るものを害されたのならばそれを決して許しはしない。例えどのような輩であろうと等しく断罪する。努努、忘れるでない」
それを聞いてしまえば、答えるしかない。やると言ったら、彼は必ず実行してしまう。白火が口を開かずとも、必ずや調べあげ突き止め、断罪してしまう。ならば素直に告げた方が良い。焃獄卿の怒りが、これ以上募ってしまう前に。
「…後宮に勤める、侍女らが」
「あいわかった。白火、そなたの兄らが酷く慌て探しておった。戻るがよい」
そういい立ち上がり膝から彼女を下ろした時、高めの声と慌ただしい足音が聞こえた。
「白火!ようやく見つけましたわ!こんなところまで来て…まあ、父様がご一緒でしたのね」
「とても心配したんだぞ…父様、こちらにお出でだったんですね」
慌ただしく白火に駆け寄り、安堵したように微笑みを向けると彼女の兄姉である皇子と一の姫、紅焔と焔火は焃獄卿に深く礼をした。
「兄様、姉様」
「また何か誰かに言われたか?」
「心配するではありませんか!もう勝手にどこかに行ってはなりませんわ、あっても乳母や侍女を連れてくださいませ」
矢継ぎ早に浴びせられる言葉はどれも白火を案じる言葉だ。勝手に出てきたことを深く反省して白火は微笑んだ。
「心配をおかけして申し訳ございません、兄様、姉様」
いつの間に、悲しみはどこかへ消えている。顔をあげれば焃獄卿がこちらを見ていた。その目はとても穏やかなものだ。「俺は執務に戻る。そなたらもいつまでもこのようなところにおらず戻るがよい」
父の言葉に三人の子供は返事を返す。
この愛しい家族への誇らしさが、部屋に戻る白火の胸に満たされていた。



焃獄卿ファミリーの末の娘、白火の話。
上から長男紅焔(こうえん)、長女焔火(ほむらひ)、次女白火(しらひ)。
紅焔が13、焔火が12、白火が9歳くらい。そんなんでよければCPとか募集してます…焃獄卿も紅焔達の母である妃が亡くなって傷心ですがCPとか気になれば…(?)

紅焔(ホウオウ)…和三国の皇子。長男。13歳。しっかり者で妹想い。お父さんの力になりたくて勉強中。真面目な性格。武術の鍛錬に励む。弱い者を守りたい精神。
焔火(ホウオウ)…一の姫。長女。12歳。お嬢様言葉で強気な性格であるが他人を思いやるいい子。人のためを優先出来る子。妹めっちゃ可愛がってる。兄は尊敬してる。
白火(★ホウオウ)…父や兄姉と違う色彩を持つが故に血の繋がりを疑われる。二の姫。次女。9歳。自分に自信がなく控えめな性格。人前で泣かない。

こんな子たち。よろしくお願いします…