臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

否定的な僕たちのための

何より暖かい日常

(先日紹介した異形っ子たちの日常です)

◼︎知るということ、
昴はセフィロトとアパタイトが探し出し、自分達も手伝って住めるようにした家とも呼べぬ質素なものから少し離れた森の中の大樹に背を預け座っていた。
皆同じ悩みを抱える彼らとは誰より分かり合える家族であることに変わりはないのだが、それでも一人になりたい時はある。
腕をふわふわと持ち上げてみれば昴の周りには黒い羽が大量に落ちていた。それを見て思い切り顔を顰めるとおもむろに自身の周りにあるそれらを踏みにじり始めた。これがなければどれほど楽に生きれただろうか。
ずっとぼんやりとそれを踏みにじり続けていた昴の視界を何かが動いた気がした。昴の目はいい。それは単純に視力というものではなく動体視力など、視覚にかんすることならばたいてい優れている。顔をあげれば、悲しそうな顔をしている梅子がいた。
梅子の頭には立派な角が生えている。異形のそれは彼女を大きく傷付けたはずである。まさにそう、昴の左腕と同じように。
「昴くん」
周りの視線にすっかり臆病になってしまった彼女は小さく、無意識であろうが足音を消すように控えめに駆け寄った。
「どうかしたのか、梅子」
昴が尋ねても悩むように口を開閉していた梅子であったがやがて手の内に大事そうに持っていたものを昴に見せた。
「…梅子、これはどういうことだ?」
梅子の手にあるのは黒い羽をメインとしたアクセサリー類である。
「家族」が見れば一目でわかる、昴の羽だと。
「昴くんには悪いと思ったんだけどね、聞いてほしいの」
昴は状況が飲み込めずに目を白黒させていたが、何事も話を聞かねばわかるまいと梅子に続きを促した。
「これをアパさんとセフィにいちゃんに、私達は町になんて行かないから、二人に頼んでこれを路上で売ってもらったの。…それはもう大盛況だったんだって!皆素晴らしいって、こんな綺麗な羽の飾りを見たことないって褒めてたって言ってたよ。」
にこりと笑って梅子は一番伝えたいことを家族に伝える。
「私達だって昴くんの羽綺麗だと思ってるよ。だから昴くんはそんなに嫌わなくていいんだよ」
昴は呆然と目を見開く。しんじられない、とその唇が動いた気がした。
反応のない昴に梅子の顔色はどんどん悪くなり、しまいには涙目で私なんかが出過ぎたことを言ったでしょうかごめんなさいと叫び始めた。
そんな梅子に苦笑して昴は梅子の頭を落ち着かせるようにそっと撫でる。
「いや、違う。ありがとう梅子、俺はとても嬉しい」
そう昴が笑えば梅子もはにかんで笑った。
「お前ももっと自信を持つといい。…こんなに思いやりある行動が出来る優しい奴だ、お前は」
昴の言葉に梅子はぶんぶんと首を横に振った。そんなことはないのだと。
そんな梅子に言い聞かせるように、あるいはただの独り言だったのかもしれないが、昴はつぶやいた。
「何の異常も無い者は俺たちを貶し弾き出すことしか出来なかったのに、散々痛めつけられた異形の者が何より思いやりを知るのだ。思いやりを助け合いを掲げる奴らよりも」

(それは思いやりに繋がるよ)

◼︎お腹いっぱいの愛情で
彼らが家と呼ぶ、家とは程遠いものより少し遠く、アパタイトとセフィロトは顔を見合わせた。
「ちょっとセフィ?これじゃ足りないじゃん」
「お前こそ…いや、そんなことを言ってる場合じゃねぇな」
二人の間には仕留めた獲物として巨大なイノシシがあった。普通に家族で食べるには問題ない量だと言えるのではあるが、如何せん彼らが拾って育てた少年少女達「家族」には大食らいがいる。
「ご飯の時間」にはもう時間がないがこのままでは大問題である。
溜め息が二つ重なり、二人は森の方へ再び足を進めた。
彼らとて腹はすいているのだが、どうにも家族と呼ぶ少年少女には甘くなる。
しばらくして家に到着した彼らはイノシシの他にいくつか小さな獣をつれていた。
「梅子、いる?早く料理してくれない」
「どうしてお前はそう言う言い方しか出来ないんだ、アパ!」
アパタイトの物言いをセフィロトが嗜めるのはいつもの光景である。
呼ばれた梅子は慌てて獣を受け取り簡易なキッチンの方へと戻っていった。包丁の音が聞こえて、すでに自分たちで木の実でも取ったのかスープのような、とてもいい香りがする。
玄関でそんなことを考えてればすぐそばで声がした。
「アパ、セフィ、ニールがとてもお腹をすかせてるんだ」
突然現れた少年に二人とも驚く。相変わらず気配のない、とぼやきつつニールと呼ばれた少女を見れば確かに食卓に突っ伏してぐったりとしている。
ちょうど梅子が食卓にご飯を運び込んだところらしい、子供たちはいつの間にか決まっていたお決まりの席に座る。
ぐったりとしている少女の前以外に置かれた料理はとても美味しそうだ。セフィロトはそこでイノシシを引きずって少女の側に置く。
「いただきます」
セフィロトの合図に皆揃っていただきますと復唱し食べ始める。セフィロトはまだぐったりとする少女の口元に巻かれたバンダナをそっと取った。
「クールニール、いただきます」
そう言えば嬉しそうにいただきます!と言って側に置かれたイノシシをむんずと掴んだ。
獣の足を掴み上げ躊躇いもなく食んだ。すぐに耳を塞ぎたくなるような音と共に骨を噛み砕き、彼女の食事が始まる。
見慣れたそれに反応するものはいない。これはただの日常だ。
「梅子、料理の腕があがったか?」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「調子に乗らないでよ。このくらいで」
「ひっ…ごめんなさい私なんかが!」
「梅子、アパさんはちゃんと認めてるよ」
「玉響の言うとおりだな」
たわいない話をしていれば5分とたたずクールニールと呼ばれた少女のごちそうさまでしたという声が聞こえた。
食べ終えたクールニールも加えて家族で他愛ない話をする日常はこの空間の誰にとっても大切なものであった。
「ごちそうさまでした」
アパタイトが頃合いを見てそう言えば皆復唱する。
社会から省かれた者で作り上げた食卓はとても幸せな食卓なのである。

(満たされた僕たち)

◼︎大人になろう
クールニールの様子がおかしい。玉響は首を傾げた。
おやつを食べているときにあんぐりと大口を開けて本能のままに食らおうとして…その口をバンダナに隠す。そのときの表情は本能に逆らったからであろう、とても悩ましげである。
「お腹が痛いの?クール」
問えば違う、と小さくかえってきた。
「どうしたの、悩んでるの?」
玉響は不安そうにクールニールに尋ねる。彼の不安に反応してか、頬には一つ、そこにあるはずもない目が開こうとしていた。
「………たべたくない」
ぽつりと返された答えに玉響は慌てた。病気か別の何かか、いや何より保護者であり責任者であるアパタイトとセフィロトに相談しなければと思考したところでまたぽつりとクールニールが零す。
「………誰も、たべたくない」
それを聞いて玉響の脳裏に浮かんだのは血塗れのアパタイトと慌てた自分たちを制止する彼の姿であった。
彼女の食欲は留まることを知らず、暴走する。暴走した彼女は本能のままにアパタイトの肩に食らいついたことがあった。
彼女は純粋にその異形を呪っているのだ、
玉響にはわからない変化が彼女にあったらしい。玉響はそっと頬の目を手で覆った。
子供であった彼女は今ようやく我慢を覚えようとしているのだ。
大人になりたいと願った少女に玉響は何も出来ない自分を恨んだ。きっとそれしか出来ない自分が誰よりも子供なのだろうと思い知らされた。

(たいせつなあのひとをまもるために)


力が尽きたんでこのへんで!
閲覧ありがとうございました。クールニールと昴以外は恋人募集中ですy((