臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

君が笑うと世界が止まる

さっきの魔王様と花嫁設定です可愛いのあらぶるよ……

SSその1

アストのリオへの評価はちゅうくらい。ちょいちょい仲良くなりかけの時のお話。リオもジオリスクに惹かれつつある時期。

「今日はこっちに行こうっと」
そう呟くとリオは薄暗い廊下に足を進めた。彼女の周りには何の気配もない。
悪く言えば囚われの状態である彼女ではあるが、基本的に彼女は城の中の行動を制限されていない。今のように護衛や見張りさえいないままに城を散策する日も少なくはない。とはいえ仮に囚われのお姫様だとしてもフィクションの中の彼女達には助けにきてくれる人がいるのだ。助けどころか知ってる人物さえいない自分にリオの口には自嘲めいた笑みが浮かんだ。

「きゃっ!?」
しばらく歩いたところで、何かにつまづきよろめいた。とっさに手をついてこけることは防いだが足を痛めたらしく上手く立てない。
「困ったなぁ」
さてどうしたものかと悩んでいるリオの視界が白く染まった。
「誰かいるのか?」
眩む視界でどうにか目を細めてならすと、リオに近付く数人の青年が見えた。
(このお城の人じゃない…?)
何せこの城の中でリオを、偉大な主の花嫁を知らぬものはいない。

「勇者…?」
リオの怪我を治療しなんとなく共に行動することになった(リオは一人でいいと言ったが青年たちは危ないと聞かなかった)道中で彼らについてリオは尋ねた。
彼らは勇者と名乗り魔王を倒し平和を求めてきたらしい。
魔王を倒すという言葉の意味をゆっくりと噛み砕いて吟味する。何も知らないこの世界でこの城の外を見たことがないリオにとっては、その意味を理解するのに時間を要した。
頭がその言葉の意味を理解すると同時に反論が口から出かける。しかしその反論が声となる前にリオを連れた勇者一行は突然の地響きにバランスを崩した。
地響きの招待とは巨大な蛇のモンスター。リオは経験をするはずもないが、エンカウントと呼ばれるそれである。
真白い大蛇はリオを見て動きを止めると勇者一行に襲いかかる。
狙いは花嫁、ただ一人。
その執拗なリオを狙う攻撃に勇者一行も気付き、リオを守ろうとするが大蛇の牙がリオのドレスの裾を捉える。
リオは敵意がないとわかりきっている大蛇に身を任せた。

「花嫁サマ」
傷つかないように優しく地面に降ろされて大蛇に呼ばれてハッと周りを見渡す。
いつの間にか先ほどのダンジョンと呼ぶべき荒れた廊下とは一転、いつもリオが過ごしているような綺麗な部屋だ。
「…蛇さん、あの人達はどちら様?」
「…アレハ、我ガ主ヲ殺ス…為ニ人間ガ寄越シタ…勇者デス」
片言の言葉を聞きながらリオの表情は暗く沈む。
見たことはないが、リオだって人間だ。この世界の人間を愛したいと思っている。いつか会って話したいと思っていた。だが、惜しまぬ愛を捧げてくれて、この世界でわからぬことばかりの自身に花嫁なんてものを押し付けたのは確かにそうだがそれでもその不安を解消するように不器用に努めてくれたその人を殺すと言われれば首を縦に振ることだけは、どうしてもできなかった。
「…蛇さん、貴方私のお願い聞いてくれる?」

勇者一行は先ほど会った、恐らくは魔王に攫われて逃げようとしていたのではないかと思われる少女を気にかけていた。
進む道で探しても見つからなかった。進むにつれ敵も強くなっている、そんな気の抜けない状態の中ふと勇者一行は開けた場所に出た。
ダンスでも踊れそうな広いホール、大きな窓はいつの間に夜になったのやら月や星の光を拾う。
最初に気付いたのは誰であったか。
勇者一行の入ってきた逆、階段の上に月を背負い立っていたのは間違いなくかの少女。一つだけ違うのは、その手に握られた一振りの剣か。
厭味なほどに時間がスローになる。確かに二人の目が合って、少女が足を動かそうとしたその瞬間に、
時間は唐突に戻る。
二人の横から大量の炎がホールに溢れ勇者一行は撤退を余儀無くされた。
残されたのは少女と傍らに現れた狼のような姿のモンスターだけである。

「…花嫁、お前どういうつもりだ」
ギロリと鋭い瞳が細められた。
リオは俯いた顔をあげようとしない。やがてその影にぱたりと雫が落ちる。
狼が狼狽える。なんだかんだといって少しずつ見直している少女の涙はどうにも苦手だった。
ふわりと黒がリオの体を包んだ。
「…王…様…」

気配なく魔王と呼ばれる男、ジオリスクは背後からリオを抱き込んだ。
「何があった、花嫁。あの人間に何かされたか…?あぁお前に良くしてくれたようだから見逃したが…」
「…何もないわ」
ゆるゆると首を振る。魔王はリオの体を反転させ真正面から再び抱きしめる。
「ごめん…なさい」
ぽつりと、小さな声が狼と魔王の鼓膜を震わせる。
「知ってほしくなかったのに…貴方達を嫌う人間が…いるって…!私みたいな…もっと優しい人もいるって!なのに…ごめんなさい…!」
少女のこぼした願いと雫は、人間を信じる気をとうに捨てた二人に響くことはない。
それでも自分を守りたい、彼女の信じる気持ちをどうしてもこの子から取り上げたくなくて、それを守りたいと願って、魔王は黙って花嫁を抱く腕に力をこめ、狼は目を伏せて二人の足にすり寄った。


この大蛇のちにリオがミシロと名付けますん((

その2
もう完璧に仲良くなって旦那と嫁くらいの扱い。アストも仲良し。どうしても街にきたいリオの願いが叶った。

「わぁ…人間がいっぱい…」
ほうとため息をつくリオの頬は紅潮している。隣で狼の姿をしたアストがため息をつく。
「『姫様』、落ち着いてください」
今回初めて城からの外出を許可されたリオは護衛としてモンスター姿のアストを引き連れ街に繰り出した。当然魔王もついてこようとしたが主が外出とは何事かとひきとめられ責められたため泣く泣くリオを見送ることとなった。
リオの服装はお忍びには向かない相変わらずのドレス姿だ。もっと庶民の装いをアストとリオは提案したが魔王は首を縦には振らなかった。我が花嫁に粗末なものなど、ということらしい。
よってドレスにマントをはおり、とある王女のお忍び、という設定でアストとリオは通すことに決めた。

「姫様、どこか見たいところはございますか?」
「んー…ない…というかわかんない。知らないもの」
リオの返事にアストは納得すると歩きながら見ようと決める。
「えへへ、でもお姫様って響きいいね」
にこりとリオは満足そうに笑う。
「…花嫁、お前は普段からそれに近い位置だがな」
「そう?でも憧れじゃない」
街をぐるりと見渡して顔を綻ばせるリオにアストは目を細める。

「…姫様、止まって」
「凄い人だかりね、アスト、これは?」
「…大道芸のようですね」
隙間から前に体を滑りこませ二人は大道芸が見える前まで移動する。
「すごーい!」
ひとしきり終われば人だかりは嘘のように解散してしまう。
「まるで魔法のようだわ、ねぇアスト?」
「…魔法ならばもっと美しい。かのお方はもっと素晴らしいものを、お前が頼めばいくらでも見せるだろうに」
「でもね。魔法なんてなくても、人は生きてるんだ!…って思わない?」
アストは無言で、リオの発言を図るようにリオの顔を見上げる。
「…わからんな」
「…人は嫌い?」
「ああ」
アストの言葉にリオは寂しそうに眉を下げる。でも優しそうな微笑みを崩さずに、膝を折って狼と視線を合わせた。
「私のことは、嫌い?」
「お前…お前は…」
アストの瞳がまっすぐにリオの目を捉える直前、彼女は悪戯な笑みを浮かべ立ち上がる。立てた人差し指をアストの眼前に突き付けてまたおかしそうに笑った。
「『姫様』には敬語でしょ、護衛さん」
くるりとマントとドレスを翻して先を歩く背中は答えを拒絶しているように見えた。
「寂しいなら甘えればいいのに、姫様」
ぽつりと、どこにいても一人ぼっちのお姫様の背中をアストは追った。




勇者が魔王に勝ってしまって、今まで行けなかった(結界で)フロアに勇者が来て最後のドアを開けたらいたリオが次に開けて来るのは絶対に私だからと言った約束してたのに勇者が来て絶望するバッドエンドもいいかt((