臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

1と3の始まりは、

叢樹さんの一員、ガスマスクの子トライとモノのお話ーだと思う。

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モノとトライさんはこんな。

軽い小話です。


真白な二人だけの質素な部屋で少女と青年は過ごしていた。
青年は考える、このままここで過ごしていいのかと。
彼は自分たちはその場にいてはいけない存在だと考える。実験で作られた人工生命体、そんな自分たち。神ではなく人の作った命が許されるか。
「お前はどう思う?」
「うー?」
こてんと首を傾げた少女に答えが返せる訳がないとわかっていた彼は苦笑する。
彼女は言葉を持たないのだから。
生まれて間もない彼女はまだ言葉を理解していない。その意味を理解し、彼の言いたいことを理解しても、その舌は追いつかない。
彼女は賢い。本当は問いかけの意味も全て理解している。
彼の答えなどとうに出来ているのだ。
「ゔー?」
悩む彼を心配してか気遣わし気な声が少女から漏れる。感情なんてものを彼は理解することが出来なかったが、自分の知識に当てはめるとこの感情はもしかしたら、なんてらしくない思考を早々に遮断する。時間の無駄であると。
「…なぁ、俺が出ると言えばお前、ついてきてくれるのか?」
このままここで作られたままにこの知識だけを使われるなんて、お前だってここで作られてそのまま道具のように身体に管を繋がれて切り刻まれて生ゴミとして処分される、これは自分が作ったなら何をしていいというこの考えを放置してもよいのか。
「ゔー」
彼女は赤子のように無垢に笑って、彼の手を握った。彼の名前を呼んで。いいんだよ、と言われた気がした。
そこから長い期間、じっくり準備を進めた。

準備に数ヶ月かかったが、それでも彼と彼女は決行した。
午前九時。
割り当てられた部屋で二人はガスマスクをつける。これがなくては二人はこの部屋の外で生きてはいけない。
廊下を早歩きで抜ける。少女は左右に気を取られたがその度に彼が窘めた。
「おい、×××。何を見ている?」
「…ゔー」
彼女の視線を見て彼は絶句する。それでも拳を握りしめ少女を引き連れた。
両脇に並ぶガラスのケース。液体に浮かぶ人間のような形の肉塊にその目は射抜くようにこちらを見ていた。
ケースの向こうにあったのは檻の群れ。その無数の目も全てがこちらを向く。
どうみたってあれは、あれらは、彼達は、
俺の仲間じゃないか。
よぎった言葉は飲み込んだ。
少女は彼らを連れて行かないの、と純粋に疑問に思っただけなのだ。
置いて行く俺は酷いか、だがしかし神の作る世から離された俺を赦すものはないだろう。
途中で研究員に見つかったが、出口は目前だ。×××も俺も戦闘が弱い訳ではない。研究員から拳銃を奪いつつ逃げる。
途中で気になる言葉を研究員から聞いた。彼女、×××を執拗に取り返そうとしていたやつだ。
「×××を…!そいつには…!計画が…台無しに…」
気になったが俺は彼女を連れて外の世界へ出た。
外のことは何も知らないが、俺たちには知識があった。

数ヶ月もすれば俺たちを探す研究員の数も減った。諦めた訳ではないのだろう。
「ゔー!」
「…前から思っていたが、その名はやめろ、×××」
「?」
「研究員たちが生み出した俺たちにつけられた名前」。反吐が出る。
「ゔーは、や?」
「ああ、嫌だ」
この子は本当に賢い。あそこを出て数日、言葉を少しずつ操れるようになってきた。
「“あそこから逃げ出した俺たちにつけられた名前”がほしい」
「ゔー?ちがうの?」
「…そうだな、お前にも名をやろうか。」
少し考えこんだのちに告げる、自由の名。
「1(モノ)。お前はⅠ(モノ)でどうだ?」
「…?」
「お前の名前だ、モノ」
×××と呼ばれていた少女は新しい名前に微笑み返す。
「ゔーは?ゔーの、なまえ」
「俺…?」
ゔーという愛称の示すその名で呼ばれるのが嫌ならやはり考えるしかあるまい。
「…俺はⅢ(トライ)でいいよ、トライだ」
「…とらい」
優しく肯定するように呼ばれれば、それはもう彼の名前。

このちょっとあとにキイトあたりに保護されて叢樹へ()