臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

愛と絆と

スパイスに憎しみ。


「わかったらさっさとどいてくれない?邪魔」
ぞんざいな言葉を吐き捨てた白髪の人物は腕を組みいらただしげに道を塞ぐものを見る。
「いいのですか」
「さっきからそう言っているでしょ?耳が遠いの?」
早くどけ、その人物の目はどんどん厳しくなる。
「神としての力を捨て責務から逃れ無責任に過ごしていくの?とてもとてもつらいよ?」
「そんなのわかってる。…頼むから其処をどけ」
もう一人、白髪の人物の後ろで流れを見ていた黒髪の人物が口を挟む。
「これは俺とこいつで決めたこと…さぁ、どけよ“神”、俺たち人間の邪魔をしてくれるな」
「…お前さん方の神の子はいないのだよ?後任さえ見つからないのに…」
口説い」
まだ引き止めたがる人物に埒が明かないと白髪の人物はそれを無視して歩み出す。
「…しょうがないねぇ」
その諦めたような響きに白髪の人物の歩みは止まる。
「認める?」
「認めるしかないのだろうねぇ」
ニタリと笑う次の瞬間、白髪の人物の胸の真ん中に深々とそれが突き刺さった。引き止める人物の、羽の一部か。
とっさに黒髪の人物が動こうとしたが引き止める人物はそれを制した。
「認めてはあげるよ、ねぇ」
白髪の人物の血を浴びながら笑う。その血は最後の抵抗のように火花に変わる。
「君の心の臓はもう止まったのかい?」
にこりと投げられた問いに白髪の人物はもはや答えることは出来なかった。睨みつけていたが、それでも限界のように膝から崩れ落ちる。
それを確認すると翼をあっさりとその背から消した。通せんぼのように立ちふさがっていたその背後の、天つ神の地ではない人の世に通じる出口へ白髪の人物を蹴り入れる。
「残るはお前さんだねぇ」
「ああ」
「ここに残りはしないのかい」
「ああ」
「どうしても、神としての責任を捨てて二つも穴を開けてまでいかねばならぬのかい」
「あいつらには俺らが必要だ。だから行く、それだけだ」
こりゃあテコでも動かない。神と呼ばれた人物は引き止めることを無理だと諦めると黒髪の人物を先ほど白髪の人物を落とした出口に突き飛ばした。
「っおい!お前俺の力は…!」
「せいぜいお前さん達は絶望すればいいねぇ。裏切り者達は絶望すればいいんだねぇ。…都合良くお前さん達を救ってくれるようなヒーローの如き神なんて他の世界の神に他ならないのだろうねぇ。でも救いを私達は許さないのだろうねぇ」
神をやめるだなんて許さないのに、精一杯苦しめばいいねぇ。そんな悲痛な温度のない声が力を奪われなかった黒髪の人物が最後に聞いた声だった。
「さようなら、英雄王達」
とても冷たい声だった。

「この体はとても不便だね、よく生活していられる」
目を覚まして周りを見れば白髪の人物がいた。
「ああ、目が覚めた?」
「…ああ」
体を起こして二人で歩き出す。
「英雄王だなんて、懐かしい呼び名だ」
「うわぁ。懐かしいね。あいつがそう呼んだの」
「ああ、酷くご立腹だ。絶望しろとな」
こわ、とまったく感情の籠らない声で呟いて歩く人物は迷いなんてまるでないように進む。
ああ、本当にただの人になったんだとふと実感した。
少し歩いて声をかければ、いくつかの顔がのぞいた。
数日前に見た時より互いを認め打ち解けあったらしい。
「…おにいさん達帰ってきた?」
怯えたような目の少年は沢山の目を揺らしつつ尋ねた。
「ああ、ただいま」
「これからは一緒だ」
そう言えば彼らは少しだけ嬉しそうにした。
「おかえりなさい、アパタイトさん、セフィロトさん」
ここにいるのは間違いなく神でもかつての英雄王でもなく、子供たちの慕う家族のアパタイトとセフィロトであった。




わかりにくいけどアパタイトとセフィロトがただの人間になるお話。理由は異形っ子と過ごすため。
神の力捨てて怒られて、色々不自由な生活してます。セフィロトは実は力を全部奪われてないのですが負い目を感じててアパタイトに告白出来てない状態。
いろんな神様になじられたりしながら異形っ子を守って生きてます。
そんな彼ら。