臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

置いてけぼりと平行線

どうしても行けない、向こう側。


先日の時計塔っ子たちの紹介もかねて彼らの日常。

▫︎おやすみなさい、
エイデンが熱をだした。連日ゲームに熱中し、睡眠を疎かにしたのが原因ではないかと思われる。
「だから、一日安静にしてナサイってイナンナからのお達しダヨ」
子供達の保護者であるカオスは呆れたような顔をしつつエイデンを布団に押し返した。それでもエイデンは布団から這い出して腕を伸ばそうとする。
「…ゲーム…どこ…?」
「寝てなサイ」
先程から繰り返しである。だがエイデンだけに構っていられるほどここの子供達は手間のかからない子ではない。
「アレス」
カオスが呼んだ途端に小柄な少女がエイデンにくっつく。
「…アレス姉さん、風邪うつるよ」
迷惑そうに一睨み。目付きがいいとは言えないエイデンの睨みはなかなかに迫力があるのだが、今は熱のせいか半減している。もとより子供達は自分達と同じかもう少し華奢な体のアレスに強く出れないこともある。
「アレス、エイデンを見ててオクレ。起きようとしたりゲームに手を伸ばしたらぎゅってしていいヨ」
「うん、エイデン、ゲームはまた元気になったらね?」
アレスにエイデンの見張りを任せてカオスは他の子供達のもとへいく。
「ルクシエラ、あとで栄養を考えてお粥を作ってアゲテ?エイデンのために」
「わかった」
退屈そうにしているルクシエラはいわゆる天才だ。一度料理にもしっかり手を出したのだがやはりある程度のレベルにはすぐに到達したためにこちらも熱中することなく飽きたらしい。それでもシェフと言っても疑いないような料理は作れる。時計塔の皆のためにもよくその腕をふるっている。
ルクシエラが台所に行ったことを確認してエイデンの様子を見に行けば先程よりも部屋の人口は大幅に増えていた。
「元気になったらボクとおやつ賭けてまたゲームしよっか、エイデン」
「おねえ熱とかありえないよ。というか早く寝たらどうなの」
「熱で看病されるっていうのもありだよねー…ねえ僕に移して楽になる?」
「アンフェア今すごくキモいッスよ。そんな下心ありありな病人の看病なんてごめんッス」
「病気だって、フェリス。早く治ればいいよね」
「辛い?平気かい?」
心配してるようなしていないような。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる子供達にカオスもなすがままだったアレスもため息一つついて部屋の外を指差した。
「病人の前で騒がしい。外に出て」
「お前達、休まるもんも休まらないデショ」
静かになった部屋で寝息を立てたエイデンにカオスとアレスは微笑んだ。

(こんなに愛されてるんだから、早く元気にね)

▫︎ぬくもりにつつまれて
私はフェリスと申します。プラナルッツ嬢のお気に入りのパペットです。
プラナルッツ嬢は幼い頃に人を信じられなくなって以来、私以外とは決してお話にならないようになりました。
そんな彼女は似たような、欠陥などと言いたくはないのですが、問題を抱えた子供達と出会ったのはきっと幸いでした。
彼らが互いに心開いた頃、無人の時計塔に彼らはたどり着きました。正しくは持ち主が留守にしていただけでとても怒られたのですが、管理人のイナンナ様は聖母の如きお優しい方でした。彼女は問題だらけの彼らを放っておけなかったのです。時計塔の一部を彼らの為に解放し世話を焼いてくれました。彼女の補佐の3人も彼女が頷くのならとよくしてくれました。
正直、彼らにこんなによくしていただいたのは初めてだと思ったのです。
だからこそ、からかいながらも、怒られたりしながらも彼らはイナンナ様を彼女から感じる母性からかお母様と慕い、補佐の方々を兄姉と慕うのでしょう。
この暖かな家族に囲まれたプラナルッツ嬢はいつか私を手放すのかもしれません。それはとても悲しいですが、私の我儘です。プラナルッツ嬢が前に進むならばその成長を喜ぶべきなのです。
ですから、その時までは貴方の話し相手として、コミュニケーションの媒体としてよろしくお願いします。

(その心を溶かしておくれ)

▫︎我が前に道はなく、
「ここは時計塔。最高神と呼ばれるお方さえ干渉を許されない不可侵の領域。帰りなさい」
イナンナは真っ直ぐに前を見てそう言い放つ。
「おお、怖い怖い」
にこやかに笑う男は掴み所がない。
「でも、気になるんだよねぇ、この近辺で目撃される子供って」
にこりと笑っている男にイナンナは答えず帰りなさいと言う。
「貴方、アパタイトとセフィロトにちょっかいを出しましたね?」
「ああ、知ってるのかい」
「ええ。ちょっかいをかけたのに、相手にされずみすみす人の世に逃すなんて何をしに行ったの?」
「さすがに辛辣だねぇ」
「イナンナの言う通りだろうが、愚鈍」
「役立たずなの?」
「引き止めに行ったんじゃなかったのカイ?」
「おや、補佐さん達もいたのかい」
いつの間にかイナンナの後ろに控えていた3人も会話に加わるが、前のイナンナの発言を邪魔しないために黙る。
「君たちは英雄王たちをどう思ってるんだい」
「アパタイトとセフィロトを許すことは出来ません、絶対に」
ふうんとあくまで男は興味なさげである。
「さて、貴方はまだ時計塔に入りたいと言うのですか、坊や」
「…貴女に坊やと呼ばれるのは本当に久し振りだ」
そんな言葉にイナンナはくすりと笑う。
「貴方が時計塔に入りたいと言うならば、私は貴方を殺す覚悟さえありますよ、坊や」
そういうイナンナの手の内に槍が出現する。そしてそれを真っ直ぐ男に構えた。
「…本気なの、騎士王?タブーだって犯すって?」
「坊や、本気とおふざけの境界は見極めなさい」
「…しょうがない、引くしかないようだねぇ」
そう言えば彼は踵を返す。彼の体はたちまち消える。
「…やっと帰ったなあいつ」
「迷惑なの」
「しつこいねぇ全く…ネ」
3人もそれぞれいつの間にか持っていたそれぞれの武器を下ろす。
「そう言ってあげないで、寂しいだけよ」
「それですむのか…」
「…関わると痛いほどにアパタイトとセフィロトの気持ちが分かりますね。こんなにも、」
こんなにも、その言葉は続かなかったが、補佐達には分かってしまった。
「…だからこそ許してはならないでしょう。あの子たちを。さぁ、無駄話はやめにして帰りましょうか」
何が正しいのかはわからないが、増えた家族を守りたいと思うのはきっと大罪を犯してさえ叶えたい想いなのだろう。
自分達は裏切ることが出来ず、アパタイトとセフィロトはその想いのために裏切ったのだろう。
この先はわからない、わかる者などいない。だからこそがむしゃらに前へと進むのだ。

(後ろに道が出来るのよ、それを人は人生と呼ぶの)



わりとやっつけですがこんな感じですん(わからない)