臆病者の謳うメメント・モリ

花田西宮の創作だったり日常だったりの一コマ一コマ

想い出の墓場

もうどこにもない記憶よ、眠れ

誰かの日記。それの一部を抜粋していったもの。



まず初めに。
この日記を私の名前を取って01日記、ゼロイチ日記と名付ける。
これは私があの息苦しい狭い世界から逃げた先で見たものを記録するものである。
(ここから先は使用されたペンが違う。おそらく後日つけたしたと思われる)
私は01日記を記す。
あの人がなくしてしまった想い出を、全てここに繋ぎとめるために。


×月◎日
今日はアジトでごろごろしていた。自分の部屋を訪れる人なんて誰もいない。
だってここでは皆息をすることができないから。
レイシーが遊んでくれた。レイシーはまだお姉さん探してるんだって。見つかるといいね。


×月◎日
今日はキイトがいた。
私とトライにたまには外を見てきたらどうですかっていうの。
面倒くさいんだけど、私もトライもキイトが好きだから、キイトは間違ったこと言わないのだから、お外に行こうと思う。
沢山外を見て知って、お勉強してくださいってキイトは言う。
トライはいつもの無表情だった。

(一週間程日付があく)
×月◎日
みゃあに会ったの。
とっても楽しかった!やっぱりキイトの言う通りお外に行ってよかったのかもしれない。
彼はみゃあっていうの。とても綺麗な人だった。私はいつもと違う感情を知ったのかもしれない。新しい感情を持て余して01日記をないがしろにするなんてらしくない。
あの人に会えて嬉しかった。

×月◎日
今日も私はうきうきと散歩に行くの。会いたい人が出来たんだもの。あの人に会えたらいいな。

×月◎日
今日はみゃあに会えたの!とっても楽しかったんだ!
それに帰ったらキイトが私の好きなもの作ってくれたの。
今日はとってもいい一日、素敵な気分で眠れそう。

×月◎日
どうして?みゃあに会ったの。
絶対にあの人はみゃあで私は私なのにあの人は私の目を見て初めましてって言った。
わかんない。

(数ヶ月の期間をおく。どうやら最初のページの追記と同じペンで書かれているらしい)
×月◎日
みゃあは定期的にきっと記憶がなくなるんだ。
私との楽しい想い出だって全部全部消えちゃうんだ。だから私はここに書く。
とくに、みゃあとの想い出を事細かに書くんだ。
沢山沢山たまったらみゃあに見せてあげるの。きっとみんな思い出してくれる。
楽しみだな、ガンバらないと。

×月◎日
今日はこの01日記にもある定期実験の記録。
マスクを部屋の外で外すのだ。
とはいえ今回も惨敗。トライと一緒に色々薬を調べてるのに、まだまだらしい。
…皆の吸う酸素ってやっぱり美味しくないなぁ

×月◎日
今日はみゃあに会った!いつもより気合をいれなくちゃね!
みゃあに会ってやっぱり取り留めのないお話いっぱいしたの。ねことかお天気、いっぱい。
お花畑があったから、一回キイトに教えてもらった花冠を作ってあげたの。
喜んでくれたかな?

(少し間があいて、いつもより少し乱雑な字で殴り書きしてある)
×月◎日
まただ、また初めまして。
違うの、違うよ、初めましてなんかじゃない。
みゃあはみゃあで私は私なのにどうして初めましてなの。

×月◎日
キイトにこの日記を見られた。
大丈夫かと、心配された。
どうしてそう心配そうに見るのかわかんない。トライと違って感情がわかる私にもやっぱり感情って難しい。
所詮模造品ってトライが言ってたっけな。

×月◎日
みゃあに会えたの。とても嬉しくてとびついちゃった。
手をつないで歩くだけでなんだか胸があたたかい。
みゃあはもしかしたら魔法だって使えるのかもしれない!

×月◎日
いくら難しい数式が解けたってそれは案外無意味らしい。
あそこを出てみればそんな知識いらなくて、私もトライもほとほと困り果てた。キイトが拾ってくれなかったらどうなってたのかな。
私は情報とは差異であると書いた文章を思い出した。
例えばいくつかある同じ箱の一つにボールを入れて、全ての箱に蓋をする。そのうちボールを入れたものだけにリボンを巻けばその差異はどの箱にボールがはいって入っているかという情報になる。だからこそ全ての箱にリボンを巻けば、その情報は差異とともになくなるのだ。私はみゃあを比べる。
今のみゃあと前のみゃあを比べて、そこに差異があれば情報になり得るのでは?
そこにみゃあがなくした記憶があるんじゃないの?
私の頭は使える方である。精一杯使うんだ。
お願い、もう初めましてはいやだよ。

×月◎日
今日はみゃあに会えたよ。
私のことを少しお話してみた。
こんな私でもまだ仲良くしてくれるといいな。

×月◎日
消えるはずがないと私は思う。
困った、最近の日記は考察が増えてるな。でも考え出すと止まらないしなんでも書いちゃうのは思考をまとめるのにうってつけ。しょうがないのかも。
質量保存の法則というものがある。状態変化しようともその質量は変わらない。
きっとそれと一緒のはず。形が変わって見えなくなっちゃっただけでどこかに蓄積されたまま、きっとどこかにあるはずだ。

×月◎日
トライって可哀想。感情を理解できないのだ。
トライに同情視線はよく向けられるが、同情されていることに気付けても何故同情されてるか、トライには理解し難いんだよ。
やっぱりトライって可哀想。

×月◎日
神様の話を聞いた。
きっと神様だと思うの。
いつかトライも神様の話をしてた気がする。トライの考察を私は覚えてる。
私達は神様が作ったものではない、神様さえ望まなかったものだって言ってた。
受精だとか難しいプロセスは私達になかった。母に守られた胎内なんかではなくビーカーに材料をいれれば出来る存在だった。被験体は捉えるよりも作る方が早いという考えに基づいた結論で、私も合理的だと思う。
でもだからこそ人が作った私達を神様は望んでいないだろうと。慈悲なんて家畜に与えられないと。
トライの考えはとても正しい気がして。

(いくつかページが破かれた形跡)
私は神様に話に行く。
みゃあを許してもらうのだ。
神様とやらは望まなかった私の話でも聞いてくれるだろうか。
最悪私の命を引き換えとしてもみゃあだけは許してもらおう。
ああ出来たらトライに感情もあげて酸素が毒にならない体になって、望みはいっぱいある。
私はこれで壊れるかもしれない。
4冊に及んだ01日記も仮にここで終わらせておこう。
またここに文字を綴ることが出来たらいいな。
どんな結末を迎えても、この日記はトライに預けて欲しい。その後の判断をトライに私は一任したい。
きっとこれは愛しいという感情だと思う。
みゃあが好きだったんだろうね。
(以下、何かで点々と濡れた跡と何かを書いてはぐちゃぐちゃと塗りつぶした跡)

(これ以降は白紙らしい)

略した部分にはみっちりと彼女と彼の想い出が詰まったノート。
これは彼女のノート。